映画レビュー「選挙」 映画レビュー 2014年03月27日 去年の6月末、渋谷イメージフォーラムの再上映で見たドキュメンタリーです。 「選挙」 想田和弘監督による「観察映画」第一弾。 予告編 あらすじ 2005年秋、東京で切手コイン商を営む「山さん」こと山内和彦は、市議会議員の補欠選挙に自民党公認候補として出馬することになった。政治は全くの素人である彼の選挙区は、縁もゆかりもない川崎市宮前区。「電柱にもおじぎ」を合言葉に、小泉首相(当時)や自民党大物議員、地元自民党応援団総出の過酷なドブ板選挙が始まった。 (Yahoo!映画より抜粋) ■ミラクルワールドジャパン 寄り添うようにして突き放す(けどちょっと寄り添う)、独特の視線で捉えた「選挙」ドキュメンタリー。 ナレーションもインタビューもBGMもテロップも無し。マイケル・ムーアの映画などと比べてしまうと極端かもしれないけれど、テレビのドキュメンタリーなどとも全く違う作品になっていると思います。 すぐ目の前にあるはずの日常的な風景が、切り取り方を変えるとこうも変貌するのか、と驚き。置きっぱなしの石をひっぺがすように、下からミラクルワールドジャパンが顔を見せます。ハリウッド映画に登場する日本人って嘘臭いと思っていましたが、日本人ってあんなにペコペコお辞儀してるもんなんですね。客観的に見てみると面白い。 小学生から「頑張ってくださーい!」なんて言われちゃったりもして、ところどころ笑えるシーンもあります。けど、だんだん暗い気分にも・・・。 完全に決められた枠の中で活動するのが当然という世界。なにも疑問に思わずにシステムの中で生きていく怖さ哀しさ辛さ。そして「選挙活動」に限らず、こんな「世界」がそこらじゅうにあるという途方もなさ。 その「世界」に守られている一面もあるかもしれないけれど・・・。 この監督が「邦画」ってタイトルで映画業界を撮ったら、似たような作品になりそうです。主題歌は大手事務所でヨロシコ〜。 ■偶然の一致?ある映画との共通点 これは以前twitterにも投稿した内容ですが・・・。 イメージフォーラムで見たとき、偶然ロマン・ポランスキー特集も同時に行われており、「選挙」と同じ日に「ローズマリーの赤ちゃん」をブッ続けで見ました。 そうやって並べてみると、この二つの作品、「選挙」と「妊娠」という全く違う題材を扱っていながら、似たようなテーマが込められているようにも感じられました。 「ローズマリーの赤ちゃん」は、主人公の女性が妊娠をキッカケに、「悪魔崇拝者の隣人が私の赤ちゃんを生け贄として狙っているのでは・・・」と疑心暗鬼に陥っていく物語です。 主人公の気持ちとは裏腹に、周囲の人間たちが勝手にどんどん盛り上がっていく様子が、私には「選挙」とダブって見えてしまったんですね。 そして最後にやってくる「赤ちゃんの誕生。それを祝う悪魔崇拝者たち」。この絵ヅラなんか「当選した山さんと万歳三唱する応援者たちの図」とほぼ一緒に見えます。 「悪魔」というのは「人間」とほぼイコールです。悪魔崇拝者たちに囲まれて、悪魔の申し子としてこの世界を生きていくというのは、「人間としてこの世界に生まれてくるとはこういうことだ」と言っているようにも思えます。 この世界に生まれた時点で巨大なシステムに飲み込まれていく途方もなさ。この観賞後の感覚は、「選挙」を見た直後もほぼ同じ気持ちでした。 ・・・決して「当選した山さん」が「悪魔の申し子」だと言いたいわけではありません(笑)。 とはいえ、「ドキュメンタリーといっても全部段取りで決まっている」という作品が大半。 作り手も観客も「そういうものだ」と割り切ってしまっていた中で、 「いいや、そうではない」と、作品という形で提示してみせた想田監督には脱帽です。 ただただシステムに組み込まれていくだけが人間ではない!という気持ちも同時に起こる作品でした。 PR